固定残業代 — FIXED OVERTIME
固定残業代20時間は違法か。
有効と無効を分ける2つの基準
「固定残業代20時間」という契約を見て、これは違法なのかと検索している人がいます。結論から言えば、時間数の多寡そのものが違法かどうかを決めるわけではありません。判断されるのは、その手当が残業代として機能しているかどうかです。
よくある相談 — Q & A
相談者
固定残業代が20時間分って、これって違法なんですか?
回答者
時間数の多寡そのものが違法かどうかを決めるわけではありません。見られるのは、残業代として支払われているか、超過分が別払いされているかの2点です。
相談者
じゃあ、何を見ればいいんでしょう。
回答者
契約書・就業規則・給与明細の書き方です。判断の基準と、差額が出る条件を本文にまとめています。
詳しい条件と計算は、この下の本文で確認できます。
01
結論:20時間でも30時間でも、それ自体は違法ではない
固定残業代(みなし残業代)とは、月給に一定時間分の割増賃金を含めて支払う仕組みです。「20時間分」でも「45時間分」でも、制度として存在すること自体は労働基準法に違反しません。
違法になるのは、次のいずれかに当たるときです。
- その手当が残業代として支払われていると認められない(→ 全額が未払いになる)
- 固定分を超えた残業時間について差額が支払われていない(→ 超過分が未払いになる)
- 固定残業代を差し引いた結果、最低賃金を下回る
つまり、20時間という数字を眺めても結論は出ません。見るべきは契約書・就業規則・求人票の書き方と、実際の支払いです。
02
基準1:対価性 — 残業代として支払われているか
最高裁は日本ケミカル事件(平成30年7月19日)で、ある手当が割増賃金として支払われているかは、契約書等の記載内容だけでなく、労働契約の内容、実際の運用、労働者への説明から総合的に判断されるとしました。
名前が「固定残業代」でも、実態が「基本給の一部を分割しただけ」なら、対価性は認められません。逆に、手当名が「職務手当」でも、契約で時間外労働の対価と明記され、超過分を別途支払っていれば、固定残業代として認められる余地があります。
実務で問題になりやすいのは、求人票や面接で「残業代込み」と説明されていないケースです。入社時に説明がなく、賃金規程にも記載がなければ、後から「これは残業代です」と言われても認められにくくなります。
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03
基準2:明確区分性 — 普通の賃金と分けられているか
2つ目の基準は、固定残業代と、それ以外の通常の賃金が判別できる形で区分されているかです。
具体的には、次の3点が金額として分かっている必要があります。
- 基本給と固定残業代の内訳「月給30万円(残業40時間分を含む)」ではなく、「基本給25万円+固定残業代5万円(40時間分)」と書かれているか。
- 固定残業代が何時間分か時間数が特定できないと、超過分があるかどうかを計算できません。
- 超過分は別途支払う旨固定分を超えた時間外労働について、差額を支払うことが明記されているか。
この区分がない場合、固定残業代として有効に成立せず、支払った金額は残業代に充当できない可能性があります。その結果、通常の月給とは別に、実際の残業時間すべてに対する割増賃金が未払いとして残ります。
04
超過分が支払われているか。ここが差額の分かれ目
固定残業代が有効だったとしても、固定分を超えて働いた分は別途支払う必要があります。ここが実際の差額になりやすい部分です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1時間あたりの基礎賃金(25万円÷160時間) | 1,563円 |
| 20時間分の割増賃金(1,563円×1.25×20時間) | 39,075円 |
| 固定残業代として支払われた額 | 50,000円 |
| 実際に残業が45時間だった場合の不足額 | 37,919円 |
この例では、固定残業代5万円は20時間分(39,075円)を上回っています。超過分の25時間分(1,563円×1.25×25時間=48,844円)を別途支払っていなければ、差額が発生します。
固定残業代の額が法定の割増額より多いことは、超過分の支払いを免除しません。「多めに払っているから大丈夫」という運用は、裁判では通用しません。
固定残業代を引くと、いくら足りないのか。
月給・固定残業代・実際の残業時間を入れると、充当後の不足額を計算します。
05
最低賃金との関係。固定残業代の落とし穴
見落とされやすいのが、固定残業代を差し引いた後の賃金が最低賃金を下回るケースです。
最低賃金は、基本給などの通常の賃金で満たす必要があります。固定残業代は、割増賃金として支払われるものなので、最低賃金の算定には含められません。つまり「固定残業代込みで月20万円」という契約は、基本給部分だけで最低賃金を満たしていなければ違法です。
この場合、最低賃金との差額を請求できるほか、割増賃金の基礎が是正されることで、残業代の計算も変わります。固定残業代が大きいほど、基本給が薄くなり、この問題が起きやすくなります。
20時間という時間数は、この2つの基準のどちらにも影響しません。確認する順番は、①対価性、②明確区分性、③超過分の支払い、④最低賃金です。
計算例:45時間働いた月に、いくら足りないか
実際に差額が出る場面を、数字で確認します。月給30万円(基本給25万円+固定残業代5万円/20時間分)、月平均所定労働時間160時間、その月の時間外労働45時間という条件です。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 1時間あたりの基礎賃金 | 250,000 ÷ 160 | 1,563円 |
| 45時間分の割増賃金 | 1,563 × 1.25 × 45 | 87,919円 |
| 支払済みの固定残業代 | — | 50,000円 |
| 不足額 | 87,919 − 50,000 | 37,919円 |
ここで「25時間分だけを計算してしまう」誤りが起きます。45時間のうち20時間は固定残業代で充当済みだから、残り25時間分(48,844円)だけを請求する——これは二重に差し引いている計算です。支払った5万円は45時間分の債務全体に充当されるので、正しくは87,919円から5万円を引いた37,919円が不足額になります。
逆に、固定残業代が20時間分=39,075円しかないのに5万円を支払っている場合、超過した10,925円は20時間を超える部分に充当されます。金額が時間数と一致していない契約は珍しくなく、この余剰を無視すると差額を過大に見積もります。
見積もりが大きすぎても小さすぎても、交渉の場では不利になります。「支払われた額」と「発生した債務」を別々に出し、引き算するのが唯一の正しい順番です。
契約書と明細で確認する3行チェック
裁判になったとき、判断は書面と運用の両方を見て行われます。次の3つを確認してください。
| 確認すること | どこを見るか |
|---|---|
| 何時間分と特定されているか | 雇用契約書・労働条件通知書・賃金規程。「固定残業代5万円」だけでは足りません |
| 基本給と分けて表示されているか | 給与明細の支給項目。固定残業代が「諸手当」に埋もれていないか |
| 超過分を別に払う定めがあるか | 賃金規程の一文。「超過した場合は別途支給する」とあるか |
3つとも「はい」なら、固定残業代として有効に働いている可能性が高いといえます。ただし有効であっても、超過分の支払いが漏れていれば差額は発生します。「有効かどうか」と「足りているかどうか」は別の問題です。
出典
SOURCES — 出典
- 最高裁判所 平成30年7月19日 日本ケミカル事件 判決(裁時1704号6頁)
- 最高裁判所 平成24年3月8日 テックジャパン事件 判決(櫻井補足意見)
- 厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げ」
- 労働基準法 第37条(割増賃金)、最低賃金法 第4条
よくある反論 — 会社の言い分と、こちらの整理
| 会社が言いがちなこと | こちらの整理 |
|---|---|
| 20時間分を固定で払っているので残業代は不要 | 固定残業代は、払った範囲までは充当できます。20時間を超えた分は別建てで支払う必要があり、超過分が未払いになります。 |
| 契約書に固定残業代と書いてあるので有効 | 書面の有無だけでは決まりません。残業代として支払われている実態(対価性)と、普通の賃金と区別できること(明確区分性)が必要です。 |
| 足りない分は翌月に調整して払っている | 当月に発生した割増賃金は当月の賃金で支払うのが原則です。翌月以降への繰り越しは、支払遅延として扱われます。 |
未払い残業代が請求できるか、確認する。
月給・残業時間・入社と退職の年月を入れるだけで、請求できる範囲の月数と金額を計算します。登録は不要で、入力内容はブラウザの外に出ません。
- 時効で消える前の金額が分かる
- 固定残業代を引いた不足額が出る
- 管理監督者に当たるかも5問で確認