期限 — LIMITATION
残業代の時効は3年。
「退職後3年」が誤解される理由
未払い残業代の時効は、退職日から3年ではありません。各月の給与支払日から3年で、しかも1年経つごとに1年分ずつ消えていきます。「辞めてから3年ある」と待つと、待った分だけ減ります。
よくある相談 — Q & A
相談者
退職してから3年経つまでは、3年分もらえるんですよね?
回答者
そこが一番の誤解です。時効は退職日からではなく、各月の給与支払日から進みます。退職から1年経つと2年分、2年で1年分に減ります。
相談者
じゃあ、待つほど損なんですね。
回答者
はい。まず自分がどこまで請求できるのかを確かめるのが先です。期限の数え方は本文で確認できます。
詳しい条件と計算は、この下の本文で確認できます。
01
結論:請求できるのは「3年分」ではない
まず結論です。未払い残業代を請求できるのは、各月の給与支払日から3年以内の分だけです。賃金は毎月発生するので、時効も毎月、別々に進みます。
だから「3年分もらえる」は正しくありません。正しくは「3年前から今日までの分」です。この2つは、退職してからの経過時間で大きく変わります。
| 状況 | 請求できる範囲 |
|---|---|
| 在職中(勤続5年以上) | 直近3年分 |
| 退職した当日 | 3年分(最大) |
| 退職から1年経過 | 2年分 |
| 退職から2年経過 | 1年分 |
| 退職から3年経過 | 0円 |
在職中でも、古い月から順に消えていきます。退職してから動こうと考えている人は、その期間そのものが損になります。
02
「退職後3年」は、どこから来た誤解か
ネット上には「退職後3年間は請求できる」という説明があふれています。これは半分だけ正しい表現です。
正しい部分は「退職から3年を過ぎると、すべて時効で消える」ということ。誤っているのは「では3年分もらえる」という含意です。実際には、退職から3年経つまでの間に、古い月から順に消えています。
この混同が起きるのは、「時効」と「勤続年数」が同じ言葉で語られるからです。しかし時効が数えるのは支払日からの経過で、勤続年数ではありません。勤続10年でも、請求できるのは3年分です。
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03
時効は「支払期日の翌日」から進む
起点は、勤務した日でも、退職した日でもありません。その月の給与の支払期日の翌日です。月末締め・翌月25日払いの会社なら、25日が起点になります。
ここで実務上ぶつかるのが、支払日を正確に知らないという問題です。給与明細に支払日は書いてあっても、締め日までは書かれていないことが多い。この1〜2日の違いで、境界の1か月が請求できるかどうかが変わります。
概算で動くなら、1か月の余裕を見て早めに動くのが安全です。「3年ちょうど」を狙うと、起算日のズレで1か月分を落とします。
自分の期限は、いつまでか。
退職日(予定でも可)を入れると、請求できる範囲の月数と金額を計算します。登録は不要です。
04
止められるのか。完成猶予と更新
時効は、放っておけば完成します。止める方法は大きく3つです。
- 催告(内容証明郵便など)請求の意思を相手に伝えます。効果は6か月間の完成猶予だけで、時効がリセットされるわけではありません。6か月以内に次の手を打つ必要があります。
- 裁判上の請求(訴訟・労働審判)提訴すると、その間は時効が完成しません。判決が確定すると、時効は新たに進行し直します。
- 債務の承認会社が「支払います」と認めた場合、その時点から時効がやり直しになります。書面やメールで残すことが重要です。
催告だけで安心してはいけません。6か月後に何もしなければ、時効は完成します。ここを誤解して、内容証明を送ったまま止まってしまう例が少なくありません。
05
退職金だけは5年。混同しない
もう1つ、実務で間違えやすい点があります。退職手当(退職金)の時効は5年です。労働基準法第115条は「賃金(退職手当を除く)」について定めていて、退職手当は別扱いになります。
つまり、残業代は3年、退職金は5年。同じ「未払い」でも年数が違います。「退職金も3年で消える」と書いている説明は誤りです。まとめて請求する場合は、それぞれ別の期限で管理する必要があります。
計算例:退職から1年3か月後に動いた場合
時効が「毎月進む」ことを、具体的な数字で確認します。2026年10月に退職し、2027年1月に請求を始めた場合を考えます。賃金は月末締め・翌月25日払い、残業代は毎月3万円発生していたとします。
| 給与の支払日 | 時効の完成 | 2027年1月時点 |
|---|---|---|
| 2024年4月25日 | 2027年4月25日 | まだ残っている |
| 2024年1月25日 | 2027年1月25日 | 境界。1月中に手続きが必要 |
| 2023年12月25日 | 2026年12月25日 | すでに消えている |
2026年10月に退職したから「3年分=36か月」が残るわけではありません。2027年1月の時点で残っているのは2024年1月25日以降に支払われた分です。2023年12月以前の分は、退職してからまだ3か月しか経っていないのに、すでに時効で消えています。
月3万円の残業代なら、1か月消えるごとに3万円が失われます。「退職してから考えよう」と思っている間に、毎月3万円ずつ減っているというのが、この制度の実態です。
なお、2020年3月31日以前に支払期日が到来した分は、旧法の2年で消滅します。3年で計算してよいのは2020年4月1日以降の分だけです。
境界の1か月を落とさないための実務
時効の計算で実際に損をするのは、境界の1か月です。次の順番で確認すると、取りこぼしを防げます。
- 支払日を確定する給与明細の「支払日」欄と、就業規則の賃金規定を見ます。月末締め翌月25日払いなら、起算日は毎月26日です。
- 最も古い月を特定する今日から3年さかのぼり、その月の支払日がいつだったかを出します。ここが請求できる下限です。
- 迷ったら1か月手前で動く起算日の認定で争いになると、境界の月は落ちます。余裕を見て、1か月早く内容証明を用意します。
もう1つ見落とされやすいのが、退職日の後ろに残る未払いです。退職月の賃金は退職後に支払われることが多く、その支払期日は退職日より後になります。退職日を時効の起点にすると、この最後の1か月を落とします。起点はあくまで、それぞれの支払期日の翌日です。
出典
SOURCES — 出典
- 厚生労働省「賃金請求権の消滅時効は、どのように変更されたのでしょうか」
- 厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されます」(2020年4月)
- 労働基準法 第115条(賃金請求権等の消滅時効)・附則第143条第3項
- 民法 第150条(催告による時効の完成猶予)
よくある反論 — 会社の言い分と、こちらの整理
| 会社が言いがちなこと | こちらの整理 |
|---|---|
| 退職すれば、そこから3年は請求できる | 時効は「支払期日の翌日」から進みます。退職日が起算点ではないので、在職中に過ぎた分は、退職した時点ですでに消えています。 |
| 3年分は必ず残っている | 残るのは「3年前から今日まで」の分だけです。待てば待つほど古い月から順に消えるので、迷っている時間そのものが目減りになります。 |
未払い残業代が請求できるか、確認する。
月給・残業時間・入社と退職の年月を入れるだけで、請求できる範囲の月数と金額を計算します。登録は不要で、入力内容はブラウザの外に出ません。
- 時効で消える前の金額が分かる
- 固定残業代を引いた不足額が出る
- 管理監督者に当たるかも5問で確認