請求 — CLAIM
未払い残業代の請求方法。
労基署・労働審判・弁護士の使い分け
未払い残業代を取り戻す方法は、1つではありません。労働基準監督署への申告、内容証明、労働審判、訴訟、弁護士への相談。それぞれ役割が違い、できることとできないことがあります。順番を間違えると、時間だけが過ぎます。
よくある相談 — Q & A
相談者
まず労基署に相談すれば、会社が払ってくれるんでしょうか。
回答者
労基署は是正を指導する機関で、個人の金額を確定して支払いを命じることはできません。金額の解決には労働審判か訴訟が必要です。
相談者
じゃあ、順番はどうすれば。
回答者
金額の見当をつける、内容証明、6か月以内に次の手、という流れです。各段階の限界を本文で整理しています。
詳しい条件と計算は、この下の本文で確認できます。
01
最初に決めること。金額の見通しを持つ
動き出す前に、請求できる金額の見当をつけます。理由は2つあります。交渉の妥当性を判断できることと、費用や手間に対して見合うかを判断できることです。
見積もりに必要なのは、次の4つです。
- 月給と、除外できない手当の額(基礎賃金の計算に使います)
- 月平均の所定労働時間
- 月あたりの残業時間(時間外・休日・深夜に分けて)
- 在職期間と、退職日(時効で消える範囲が決まります)
この4つが揃えば、概算が出ます。時効が3年なので、古い分から消えていくことも忘れないでください。請求額が数百万円になる場合は、早めに専門家へ。
02
労働基準監督署。できること・できないこと
労働基準監督署は、法令違反がある事業場に対して指導・是正勧告を行います。申告すれば、会社に調査が入り、未払いが確認されれば支払うよう指導されます。
できること
- 会社の労働時間管理、賃金台帳、就業規則を調査させる
- 違反があれば是正勧告を出させる
- 悪質な場合、書類送検(刑事手続き)に進むことがある
できないこと
- 個人の未払い額の確定と支払いの強制労基署は「あなたにいくら払え」と命じる機関ではありません。あくまで事業場の是正を指導する立場です。
- 示談や和解の仲介金額の交渉には関与しません。
つまり、労基署は「会社を動かす」役割、金額の解決は別の手続きという分担です。申告は無料で、匿名でもできます。在職中でも申告できます。
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03
内容証明と、時効を止める手順
会社に請求の意思を明確に伝える手段が、内容証明郵便です。配達証明を付ければ、いつ何を送ったかが記録として残ります。
ただし、内容証明を送っただけでは時効は止まりません。効果は6か月間の完成猶予です。6か月以内に労働審判や訴訟を提起しないと、時効は完成します。
- 請求書を作る期間、時間数、計算根拠、請求額、支払期限を明記します。根拠の計算式を添えると、交渉が進みやすくなります。
- 内容証明+配達証明で送る郵便局の窓口で差し出します。控えと配達記録は保管します。
- 6か月以内に次の手を打つ会社が応じなければ、労働審判か訴訟へ。ここで止まると、猶予は無意味になります。
在職中に送る場合は、職場での扱いが変わるリスクも考えておきます。退職後であれば、その心配はありません。
まず、いくら請求できるのかを知る。
月給と残業時間から、時効で消える前の概算を計算します。3分で終わります。
04
労働審判と訴訟。金額を決める場
金額を確定させるには、裁判所の手続きが必要です。選択肢は主に2つあります。
| 項目 | 労働審判 | 訴訟(通常) |
|---|---|---|
| 期間の目安 | 2〜3か月程度 | 1年以上かかることも |
| 回数 | 原則3回以内 | 数次〜十数回 |
| 判断の主体 | 裁判官1名+労働者・使用者側各1名 | 裁判官 |
| 特徴 | 話し合いによる解決を目指す | 判決で決着 |
| 不服の場合 | 異議を申し立てると訴訟へ移行 | 控訴・上告 |
労働審判は話し合いが中心で、和解金が請求額を下回ることも珍しくありません。ただし、期間が短く、費用も比較的抑えられます。まとまった金額を確実に取りたいなら訴訟、早く決着したいなら労働審判が向いています。
付加金について
未払いが認められた場合、裁判所は同じ額の付加金を支払わせることができます(労働基準法第114条)。ただし、これは自動ではなく、請求した場合に裁判所が判断するものです。請求書の段階から意識しておく価値があります。
05
必要な証拠と、相談先の選び方
そろえておきたい証拠
- 労働時間の記録タイムカード、勤怠システムの画面、PCのログイン記録、業務メールの送信時刻、日報。
- 賃金の記録給与明細(全月分)、振込通帳の履歴、源泉徴収票。
- 契約の記録雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金規程。
- 働き方の記録シフト表、業務指示のメールやチャット、上司の指示内容。
退職すると社内システムを見られなくなります。在職中に、必要な画面を撮影・保存しておくのが現実的です。ただし、業務データの持ち出しは秘密保持義務に触れる場合があるため、自分の労働条件と勤怠に関する記録に限ります。
相談先の選び方
残業代請求は弁護士の業務です。社会保険労務士は、労働条件の整理や社会保険の手続きを扱いますが、裁判での代理はできません(特定の場合を除く)。まずは労働問題を扱う弁護士事務所に、初回相談(多くの場合30分〜1時間、無料または低額)を申し込むのが早道です。
動く順番。時効が近いときの優先順位
請求の手段は複数ありますが、順番を間違えると時効に間に合いません。残り時間で進め方が変わります。
| 残り期間 | まずやること | その次 |
|---|---|---|
| 1年以上 | 証拠の収集、金額の概算 | 内容証明 → 交渉 → 労働審判 |
| 6か月〜1年 | 内容証明を送る(猶予6か月を確保) | 猶予中に労働審判の申立て |
| 6か月未満 | すぐ労働審判を申し立てる | 内容証明より先に裁判所の手続き |
残り6か月を切っている場合、内容証明から入るのは危険です。催告の猶予は6か月なので、送ってから準備していると、猶予が切れた時点で時効が完成します。この場合は、いきなり労働審判を申し立てるのが正解です。申立てには時効を止める効果があります。
逆に1年以上あるなら、先に内容証明で交渉のテーブルに着かせた方が、費用も時間も抑えられます。「何から始めるか」は、残り期間で決まります。
回収額と手間の比較。どこで折り合うか
労働審判は話し合いが中心なので、請求額の全額で終わるとは限りません。現実的な着地点を、数字で見ておきます。
請求額300万円(3年分)のケースで、主な帰結を比較します。
| 進め方 | 期間 | 手元に残る額の目安 |
|---|---|---|
| 自分で交渉・満額で合意 | 1〜3か月 | 約300万円 |
| 労働審判・7割で和解 | 3〜6か月 | 210万円 − 弁護士費用 |
| 訴訟・満額判決 | 1〜2年 | 300万円 + 付加金 − 費用 |
| 時効完成(何もしない) | — | 0円 |
弁護士費用は、着手金と報酬の2本立てが一般的です。回収額の2割前後が報酬の目安といわれますが、事務所により幅があります。「満額を取るために1年待つ」より「7割で3か月で終わる」方が、金額でも時間でも有利なことがあるのは、このためです。
判断の分かれ目は、証拠の強さです。タイムカードやログが揃っていれば満額に近づき、記憶だけなら7割を切ります。まず証拠を揃え、その上で着地点を決めるのが順番です。
出典
SOURCES — 出典
- 労働基準法 第104条(労働者の申告)、第114条(付加金)、第115条(消滅時効)
- 民法 第150条(催告による完成猶予)
- 労働審判法(労働審判手続きの回数・異議の申立て)
- 厚生労働省Q&A「賃金請求権の消滅時効」
よくある反論 — 会社の言い分と、こちらの整理
| 会社が言いがちなこと | こちらの整理 |
|---|---|
| 労基署に相談すれば会社が支払う | 労基署ができるのは是正勧告までで、支払いを命じる権限はありません。金額の回収は、別の手続きになります。 |
| 内容証明を送れば時効は止まる | 催告による時効の完成猶予は6か月です。その間に労働審判や訴訟を申し立てないと、時効は完成します。 |
| 在職中に請求すると不利になる | 請求そのものは可能です。ただし証拠の確保と、退職後の生活の見通しを先に立てる方が安全です。 |
未払い残業代が請求できるか、確認する。
月給・残業時間・入社と退職の年月を入れるだけで、請求できる範囲の月数と金額を計算します。登録は不要で、入力内容はブラウザの外に出ません。
- 時効で消える前の金額が分かる
- 固定残業代を引いた不足額が出る
- 管理監督者に当たるかも5問で確認