請求 — NO RECORDS
タイムカードがない。
それでも残業時間を証明する方法
「うちはタイムカードがないから」と言われても、労働時間がなかったことにはなりません。記録を残す義務は会社側にあります。
よくある相談 — Q & A
相談者
タイムカードがない会社なんですが、請求できますか?
回答者
できます。記録を残す義務は会社側にあります。記録がないことで不利になるのは、本来は会社です。
相談者
何で証明すればいいんでしょう。
回答者
PCのログ、メールの送信時刻、日報、同僚の証言です。立証の考え方を本文で整理しています。
詳しい条件と計算は、この下の本文で確認できます。
01
記録がないのは会社の責任
労働安全衛生法は、事業者に労働時間の状況の把握を義務づけています。賃金台帳にも労働時間の記載が必要です。
記録がないことで不利になるのは、本来は会社側です。
02
使える記録
- PCのログイン・ログアウト記録
- メール・チャットの送信時刻
- 業務システムの操作履歴
- 日報、営業記録、納品書の日時
- 入退室の記録、防犯カメラ
- 同僚の証言
広告
03
立証の考え方
裁判では、一定の時間働いていたことが推認されると、その範囲で認められる傾向があります。1日ごとに厳密に証明する必要はありません。
「平均して何時間残業していたか」を、複数の記録で示すのが現実的です。
ログから月の残業時間を積み上げる手順
記録がない場合、複数の痕跡を突き合わせて1日の労働時間を復元します。実際の手順は次のとおりです。
- 1日の始まりと終わりを拾うPCのログイン/ログアウト、メールの送信時刻、社内チャットの発言時刻。最も早い時刻と最も遅い時刻を、その日の両端にします。
- 所定時間を引く9時始業・18時終業なら、拘束時間から休憩1時間を引いた8時間が所定内。それを超える部分が時間外の候補です。
- 空白を埋めるログがない日は、日報、打合せの議事録、取引先とのメールから補います。1日単位で穴が空いても、月の傾向は出せます。
- 月ごとに合計する日ごとの時間外を合計し、休日労働と深夜労働を分けて集計します。ここで初めて、割増率ごとの金額が出せます。
実例:ログイン8:45/ログアウト21:30の日が月18日、休日出勤が月2日(各8時間)あった場合。拘束12時間45分から休憩1時間を引き、所定8時間を超える部分は1日あたり3時間45分。18日で67.5時間、休日16時間。時間外は67.5時間なので、60時間を超える7.5時間は50%で計算します。
この積み上げは、完璧である必要はありません。「記録がないから0」ではなく「これだけの痕跡がある」と示すことが、交渉の出発点になります。
立証の強さは3段階。何がどれくらい効くか
証拠には強弱があります。すべてを揃える必要はなく、強いものを1つ持っているかが分かれ目です。
| 段階 | 証拠の例 | 効き方 |
|---|---|---|
| 強い | タイムカード、勤怠システムの記録、会社発行のシフト表 | 会社が作成した記録なので、否認しにくい |
| 中くらい | PCのログ、メールの送信時刻、社内チャット | 業務を行っていた時刻の裏付けになる |
| 弱い(補強) | 手書きのメモ、日記、同僚の証言 | 単独では弱いが、他の記録と整合すれば採用される |
会社が記録を保存していないこと自体が、会社側の不利益になります。労働基準法は賃金台帳の保存を義務づけており、労働時間の把握も使用者の責務です。記録がない状態で「働いていない」と主張しても、裏付けがなければ通りません。
実務では、「中くらい」の証拠を束ねて「強い」に近づける方法が取られます。ログ、メール、日報、シフト表を時系列で並べ、1日の労働時間を復元する資料を作ります。1種類で完璧を目指すより、複数で補い合う方が現実的です。
推計が認められる条件。裁判所は何を見るか
記録がない場合、労働者の積み上げがそのまま認められるわけでも、完全に否定されるわけでもありません。裁判所は次の3点を見ます。
- 業務量と時間の整合担当していた業務が、所定時間内に収まる量だったか。取引先数、処理件数、受け持ち顧客数から、残業が避けられなかったかを示します。
- 会社の関与上司が退勤時刻を認識していたか、深夜のメールに返信していたか。会社が「知り得た」状態だったかが問われます。
- 記録の一貫性積み上げた時間が、月ごとに突然2倍になったりしていないか。浮いた数字は、全体の信用を落とします。
実務では、「推計の根拠を数式で示す」ことが有効です。たとえば「担当顧客40件、1件あたり平均25分の訪問準備で月約16.7時間。所定内で処理できるのは10時間分なので、6.7時間が超過」といった形です。業務量から逆算した数字は、記憶による申告より説得力を持ちます。
逆に弱いのは、「だいたい毎日2時間残業していた」という概括的な主張だけです。日付と時刻の裏付けが1つもないと、金額の認定まで届きません。全部の日を揃える必要はなく、典型となる1週間を詳細に復元する方が現実的です。
1週間を実測すると、月の数字が見える
記録がないときに最初にやるべきは、「典型の1週間」を選んで時刻を復元することです。全部の日を揃える必要はありません。残業が平均的な週を1つ選び、ログと記憶から時刻を埋めます。
| 曜日 | 退勤 | 拘束 | 実労働 | 時間外 |
|---|---|---|---|---|
| 月 | 20:00 | 11.0h | 10.0h | 2.0h |
| 火 | 21:30 | 12.5h | 11.5h | 3.5h |
| 水 | 19:00 | 10.0h | 9.0h | 1.0h |
| 木 | 22:00 | 13.0h | 12.0h | 4.0h |
| 金 | 20:30 | 11.5h | 10.5h | 2.5h |
| 週合計 | — | — | 53.0h | 13.0h |
この週の時間外は13時間。月に換算すると、13時間×52週÷12か月=約56時間です。年間52週で割るのは、月ごとの日数差を均すためです。31日の月と28日の月を同じ30日で扱うと、数字がぶれます。
56時間なら、月60時間のラインは超えていません。ここで「繁忙期はもっと多い」という月があれば、その月だけ別に積み上げます。年間を通して一律の数字を主張するより、「通常月56時間、繁忙月◯時間」と分けて示す方が信用されます。
単価1,500円なら、月56時間で105,000円(1,500×1.25×56)。3年分で378万円です。週13時間という地味な数字が、これだけの金額になります。
会社が記録を出さないとき、どう扱われるか
会社には、労働時間を把握し、賃金台帳を保存する義務があります。記録がないのは会社の落ち度であり、その不利益を労働者が負うわけではありません。
| 状況 | 実務での扱い |
|---|---|
| 会社がタイムカードを導入していない | 労働者側の積み上げが軸になる。会社は反証を出せない |
| 記録はあるが開示しない | 裁判では文書提出命令で出させる方向に進む |
| 記録を改ざん・削除していた | 会社側の主張全体の信用を落とす事情になる |
とくに3つ目は重い事情です。打刻を上司が消していた、残業申請を却下していたといった事実があれば、他の月の数字も「実際より少なく記録されている」と推認されます。1か所の不自然さが、全体の評価を変えます。
実務では、「記録が出ないこと」を前提に資料を作るのが正解です。会社が出すのを待つのではなく、自分側の積み上げを先に固めます。ログ、メール、日報、シフト表、業務量の記録。これらを時系列に並べた1枚の表があれば、交渉の初回から具体的な金額の話に入れます。
よくある反論 — 会社の言い分と、こちらの整理
| 会社が言いがちなこと | こちらの整理 |
|---|---|
| タイムカードがないので請求できない | 記録の保存は会社側の義務です。会社が記録していないことで、労働者が不利になる扱いはされません。 |
| 自己申告制なので申告した分だけ | 申告を修正させていた、または実態と違う運用をしていたなら、申告額がそのまま基準にはなりません。 |
| PCのログは労働時間と関係ない | ログインからログアウトまでの記録は、作業時間の裏付けになります。休憩分を除いて積み上げます。 |
未払い残業代が請求できるか、確認する。
月給・残業時間・入社と退職の年月を入れるだけで、請求できる範囲の月数と金額を計算します。登録は不要で、入力内容はブラウザの外に出ません。
- 時効で消える前の金額が分かる
- 固定残業代を引いた不足額が出る
- 管理監督者に当たるかも5問で確認